運動会では、年中さんは、高さ3メートルのはんとう棒を登るという種目がある。
幼稚園では夏休みが明けた9月から徐々に練習を始めていた。
得意な子はすぐに登ることができる。特に上の兄姉がいると、登りやすい。中には、レスリングを習っていて、ロープを毎日登っているという猛者もいた。
このような競技は、息子は最初の方にはできない。おそらく、半分ぐらいのお友達ができるようになったら、息子もできるようになるのだろうと思っていた。
しかし、いつまで経ってもできたという話は聞かなかった。当たり前である。息子は練習を殆どしないで、既に登れるようになったお友達と遊んでいたのである。
それでも、幼稚園から、自宅では練習しないで、幼稚園でお友達と一緒に登れるようになった感動を体験させて欲しいので見守っていてと言われていた。
10月になっても、登ったという話は聞かなかった。そして、息子から登れないのは自分一人だけになったという話を聞いた。
練習はさせてはいけないので、息子と対話をすることにした。
父「練習をする時間がいっぱいあったのに練習しなかったの?」
息子「お友達と遊んじゃった」
父「これから練習を一杯する必要があるんじゃない?」
息子「僕、死ぬほど頑張る!!」
父「頑張るんだ!!」
翌日、息子は担任の先生に「僕、死ぬほど頑張る!!」と宣言したのはよいものの、何回か挑戦していると、お友達が遊び始めたので、一緒に遊び始めたそうだ。
運動会まで2週間を切った。物で吊ってみることにした。
父「じいじが、登れたら、家康辞典と信長辞典を買ってくれるって!!」
息子「僕、死ぬほど頑張る!!」
父「頑張るんだ!」
しかし、登れなかった。お友達と遊ぶのが楽しいらしい。
とうとう1週間を切ってしまった。
いけないと解っていたのだが、怒ってしまった。
父「登りたいという気持ちがないんだよ!!」
「かっこわるい」
息子は悄気ながらも、健気に僕頑張る!!と泣いてしまった。
父「お父さんが悪かった。頑張るなんて言っても、何を頑張ればよいのかわからないよな。」
息子「うん、うん」
父「100回チャレンジするとか、具体的な目標を決めたらどうかな?」
息子「僕50回チャレンジする!!」
父「それに50回チャレンジするには時間が必要だから、幼稚園バスではなく、お父さんと行ってみるか?」
息子「うん!」
私と息子は幼稚園に早く出かけた。門のところで別れ際に、息子に尋ねた。
「今日の行動を確認しよう」
息子「50回登る」
しかし、息子は、お友達が来たら遊んでしまったらしい。まだ登れていない。
息子「怒らないで聞いてね。あのね50回できなかったの」
父「どうして50回しなかったの」
息子「お友達が折り紙の手裏剣を持ってきて、手裏剣欲しい?と聞かれたから欲しいと言っちゃったの。それで折り紙で遊んでいたら、あっ忘れたと思って、はんとう棒を登りだしたけど、時間が無くなったんだ。」
父「そうだったんだ。」
はんとう棒は、グループ分けされていて、グループの達成状況が紙に張り出されている。グループの子が全員できると、白い花を付けてもらえる。
父「君だけができないと、グループの子達はどんな気持ちなんだろう」
息子「がっかりする」
父「グループのお友達のことを考えて、登るというのはどうだろう?」
息子「みんなのために登る!!」
父「いやいや、自分のために登るんだよ。でも、みんなが応援してくれていることを想いだすんだ!」
息子は泣き出した。「僕、僕のグループだけ白い花が貰えないのを年少さんやお父さんお母さんに見られるのが恥ずかしいから嫌なんだ」
父「じゃあ、登れないと思ったときに、みんなのために頑張ると思って登ってみたらどうかな?明日も早く行こう」
息子「うん!」
運動会の前日、折角早く行ったのに、息子はやっぱり遊んでしまったらしい。
しかし、最後まで自力で登れた。
息子「登れないと思ったけど、みんなのために頑張る!と思ったら力だ出たんだ」
先生からお友達が息子が登れたことを喜んで泣いたということだ。
息子「僕も泣いていたから、解らなくなった」
息子を抱き上げると、「やったなあ。明日はお母さんに内緒でプリン食べような」と言って、スリスリし続けた。
幸運なことに運動会は雨のせいで日曜日に順延になった。ということは土曜日もう一度練習するチャンスがあるということだ。
息子と朝早く幼稚園に行って練習してこよう。